第19章 【第十五講】大人しく監視される不良には裏がある
「剣道で磨くのは腕だけではありません。礼儀作法が重要なのです」
○○は胴着に着替え、中学生の前に端座した。
対する高杉は制服のまま、ポケットに手を突っ込んで立っている。
礼儀作法も何もあったものではない。
「今日は堅苦しい説明はなしに、立ち合いに移りたいと思います」
○○は立ち上がると、高杉と向き合った。
竹刀を構える。○○の竹刀の高さに合わせ、高杉は手を伸ばした。
銀八は気づいた。それは竹刀ではない。
「お前それ、あん時の日本刀じゃねーか!」
神威との交戦を止めた時、銀八は高杉に斬り付けられた。
その時の日本刀に違いない。
「安心しな。鞘は抜かねーでおいてやるよ」
「当たりめーだ! つーか、竹刀くらいいくらでもあるだろ! 借りてやれよ!!」
「お断りします。慣れた得物で戦ってもらわないと、おもしろくない」
「なんで高杉じゃなくてお前が答えてんだ!」
「先生、もう黙ってて下さい」
○○は呼吸を整える。集中する。
目の前の高杉しか見えない。
この空間に自分と高杉しかいないというくらい、集中力を増す。
「ヤー!」
○○は打ち込んだ。
高杉は○○の打ち込みをかわした。
「ヤー!」
「ヤー!」
「ヤー!」
○○は何度も打ち込んだ。
高杉は何度も○○の打ち込みをかわした。
数分間、同じ景色が繰り返される。
打ち合いにならず、中学生達がどんどんとつまらなそうな顔になっていく。
堪らず、銀八は声をかける。
「高杉! 避けてばかりいねーで打ち込め!!」
ひらりひらりと高杉は蝶のように軽やかに身を翻す。