第17章 【第一三講】辻褄を合わせるのも楽じゃない
「○○殿、素晴らしい美声だっだぞ」
ステージ袖に降りると、一番にパフォーマンスをしたバカラッパーが出迎えた。
出演前に○○に告白をしようとしていたことはすっかり忘れている。
「俺としては、もっと色気のある方がウケたと思うけどな」
嗚呼じゃなくて、ああんああんと腰をくねらせて歌ってみろと、銀八は言う。
「先生、セクハラで訴えますよ」
○○は振り返り、ステージ前に居並ぶ不良トリオを見た。
三人は今の○○のパフォーマンスについて話し合っているようだ。
高杉は口元を緩めていた。
――違う。
と、○○は思う。
高杉は笑っている。だが、あの笑い顔は以前○○が見た顔とは違う。
数週間前、○○は高杉に危うい所を助けてもらった。
高杉は笑って去っていった。あの時に見えた一瞬の表情は、あんなニヒルな表情ではなかった。
穏やかで、温かみのある笑顔。
かぶき町界隈で恐れられる、史上最強最悪な不良が見せる表情とは思えなかった。
やはり、見間違いだったのだろうか。
このオーディション、高杉がいなければ出場していなかった。
むろん、土方のように警戒する必要があるとも思えず、見張りにも来なかっただろう。
一瞬見えた笑顔の真相を探ろうと、○○はこの機会を利用した。