第17章 【第一三講】辻褄を合わせるのも楽じゃない
翌週土曜日、体育館に○○はいた。
○○の前には、薄紫色のパーカーを着たラッパーの姿。
「まさか、休日に○○殿と会えるとは」
赤いキャップの下に鬱陶しいロングヘアを垂らす、世紀のバカラッパー、DJ・OZURA。
「まさか、休日にアンタに会う羽目になるとは」
河上万斉主催のオーディション当日。
3Zからオーディション参加者がいるとは思っていなかった。
もちろんいてもいい。コイツ以外なら、誰がいてもいい。
「○○殿が俺と同じくミュージシャンを目指しているとは知らなかった」
「目指してないし」
「これも運命、神様の思し召しというものだろう」
「聞いてないし」
「今からでも遅くはない。俺とユニットを組まないか?」
「組まないし」
嚙み合わない会話は日常茶飯事。
「相棒が虚無な目で見てるよ」
桂の背後にエリザベスが立っていた。
自分を裏切り、○○とユニットを組もうとした桂に対して向ける、空虚の瞳。
怒っているのか、悲しんでいるのか、いや、いつも通りか。
「すまんすまん、俺とユニットを組むのはエリザベス、お前しかいない」
よーしよしと、桂はペットを撫でる。
コホンと咳払いをすると、桂は再び○○に目を向けた。
「○○殿は相棒ではなく……」
顔を赤らめ、桂は顔を伏せる。
「こ、恋人に……」
――さあ! それではそろそろ始めるといたしましょーか!
マイクのハウリング音の後、河上万斉の大きな声が流れた。
○○は両手で耳を塞いだ。