第14章 【第十講】間近な動物のにおいはかなり強烈
「私、天才?」
「知るか」
それよりも、と、土方は気になっていることを○○に質した。
「腕、ケガしたのか?」
先程から、○○が右腕をさすっている。
よもや、動物にやられたのだろうか。
心配している素振りは見せずに、内心、気が気がない程に心配している。
剣道命の○○にとって、腕は宝だ。
「は?」
○○は眉間をピクリと動かし、土方を睨む。
「アンタのせいでしょうが」
二の腕の痛みは他でもない。
土方に力の限り掴まれていたせいだ。
「あの時……」
こちらも必死で、土方はすっかり忘れていた。
同じくすっかり忘れていたが、握った手のひらの感触も同時に思い出す。
どちらも女性特有の柔らかさ。それも他でもない、○○のカラダ。
顔が熱くなる。
「総悟! 他の動物捜しに行くぞ!」
狼狽を見抜かれまいと、土方はあたふたと踵を返した。
「別に責めるつもりはないのに」
土方の行為は、○○に危険な行いをさせないためだ。
トラに食われることに比べれば、腕の痛みなどなんてことはない。
土方が急に去ったのは、文句を言われることを避けてのことだと、○○は勘違いをしている。