第14章 【第十講】間近な動物のにおいはかなり強烈
「近藤さん、近藤さーん」
ペチペチと、○○は頬を叩く。
うーんと唸りながら、近藤はゆっくりと目を覚ました。
「○○……?」
「近藤さん、大丈夫ですか。漏らしてませんか」
一瞬、事態を把握できなかった近藤だったが、青ざめて悲鳴を上げた。
トラに追い詰められていたことを思い出したからだ。
「とりあえず、助かりましたよ」
定春がトラを伴って去って行った。
連れ添って歩く後ろ姿は、友達同士のように見えた。
「デカい四本脚同士、通じるものがあったんですかね。近藤さんはオランウータンと友達になれやせんでしたけど」
○○がウサギを檻に返していた頃、近藤や沖田達はオランウータンを発見していた。
似た種族の動物に話しかけた近藤は、友達になれず威嚇された。
「近藤さんじゃなくて山崎が適任だったなんて、一筋縄じゃいきやせんね。動物の世界は」
そのオランウータンは山崎とミントンに興じた後、彼に伴われて檻へと帰陣した。
「これで全部か」
「あ、ありがと」
土方は矢を拾い、○○に手渡した。
「よかった。壊れてなさそう」
弓矢は弓道部からの借り物だ。
無事に戻せるならそれに越したことはない。
「お前、本当に弓道の経験ねーのか?」
○○は五射とも正確に射ていた。
トラに向かっている時は必死で構っていられなかったが、今思い出すとその手並みの鮮やかさは素人とは思えなかった。
「ないよ。え、あるのかな?」
「俺が知るか」
あの時は○○も必死だった。
何となくで扱っていたが、出来そうに見えても実際に出来るものではないはずだ。
「弓道道具は家にないけどな」
○○の部屋にあるのは、剣道の道具のみだった。
剣道部の人達の話を聞いても、○○が中学時代、剣道部だったことに間違いはない。