第14章 【第十講】間近な動物のにおいはかなり強烈
「勇敢と無謀は紙一重だぞ、○○」
手をこまねく近藤の表情は渋い。
事の発端を○○は近藤から教えられた。
○○は校内放送でクラスメイトが動物捕獲に向かっていることを知り、加わるべく参じたことを伝えた。
「武道場で大人しくしてりゃよかったんだ」
土方は舌打ちをする。
女一人、ライオンやトラが歩き回る地帯に出るなど、あまりにも無鉄砲。
「それでこそ○○、って気もしますけどね」
「呑気なこと抜かすな」
大人しくしている姿など、確かに○○らしくはない。
それでも大人しくしていてほしかった。
○○の身が危険に晒されるなど、何としても避けたいこと。
「○○、そんな装備で大丈夫か」
「大丈夫だよ、問題ない」
沖田の問いに、○○は竹刀を握り締めて答える。
「大丈夫な気が全くしないな」
近藤はうーんと唸る。
「大体、弓矢なんて持って来ても使えねーだろ。やったことあんのか?」
「ないよ。それ、さっき後輩にも同じこと言われた」
「後輩……?」
土方の眉がピクリと動く。
「一人じゃなかったのか?」
「一人じゃなかったよ。後輩が一緒」
一人恐怖でプルプルと震えている。
とまでは思わないが、一人心細い思いをしているのではないかと、土方は思っていた。
他に人がいる可能性を考えていなかった。
「それは……男か?」
「そうだよ」
○○にとっては、だから何だと言わんばかりの足らぬこと。
だが、土方は心を揺さぶられ、沖田にとっては土方で遊ぶ格好の材料となる。
「武道場の暗ーい密室で、男と一夜を共にしたってわけか」
「一夜は共にしてないんだけど。朝だし」
二人きりの密室は、ほんの数十分のこと。
「どこのどいつだ、その男は!!」
この非常事態にかこつけて、「俺がいるから大丈夫だ」と、震える○○を抱き寄せるへのへのもへじの男子生徒。
そんな絵面が頭に浮かび、いもしない恋のライバルに土方は怒りを向ける。
「逃げ出した動物なんだが」
校長からもらったリストを広げ、近藤は○○に見せている。
どれどれと○○も覗き込む。
「聞いてねーし!」
近藤と○○の頭には、動物捕獲のことしかない。