第13章 【第九講】どんな映画にも一箇所くらい見所はあるよね。ない?
○○はオーディションの順番を待っていた。
廊下を歩いていた時に見せていた不敵な微笑は消えている。
今や今やと、自身の出番を待ちわびているのだろうかと、土方は○○に熱い視線を送る。
□□のためを思えば、俺が相手役になるのが一番いい。
そうだ、そうに違いない、□□のためだ、俺のためじゃない、と、土方は無理やり自身の欲望を正当化する。
○○を見つめる土方の視界を、邪魔な頭が遮った。
○○の顔は見えなくなり、男子生徒の後頭部だけが目に映る。茶色い髪の毛。
オーディションの中断時間を利用して、沖田は○○の元へと向かっていた。
自らも○○に話しかけに行きたいと思いつつ、行けない土方はヘタレである。
二言三言言葉を交わし、沖田は土方の所へとやって来た。
「○○、映画に出たいわけじゃねーみたいです」
「あ?」
――え、何で? 面倒だし、映画の撮影なんてしてたら、稽古の時間も潰れちゃう。
この時間も、教室で読書でもしていた方がマシだと言う。
土方が思った通りの返答が、○○から帰って来たと。
「じゃあ、あの笑みは何だったんだ……?」
講堂へ向かっている時、「主役の座はアタイがいただくよ」と言わんばかりにニンマリしていたではないか。
「昼飯のこと考えてたみたいでさァ。今日から学食で期間限定の牡蠣飯が始まるとか」
「どのタイミングで昼飯のこと考えてんだ! どんだけ楽しみなんだ!」
「俺じゃなくて、○○に直接言って下せェ」
○○を映画のヒロインに……!
そして、○○とキスシーン(フリだけでも可)……!
などと期待を抱いた己を、土方は恥じる。