第13章 【第九講】どんな映画にも一箇所くらい見所はあるよね。ない?
「何の映画や、それ! そんな場面ないわ! 何で犬が仇討ちに向かっとんねん!」
「そんなはずないネ。組長とワンコが天使に連れられて天に召されるシーンで、定春がワンワン泣いてたアル」
「何やそのフラン●ースの犬みたいな場面! 誰や、定春って!!」
息巻く神楽の横で、妙が穏やかな笑みを浮かべている。
「神楽ちゃん、それは『仁義なきわんにゃん大戦争』よ。この監督さんの映画じゃないわ」
「あ、その映画なら聞いたことある。剣道部の後輩達が週末のロードショーで見たって盛り上がってた。私は見てないけど」
「マジでか! ○○、見たことないアルか!? 人生損してるヨ!!」
ワイワイと女子三人が盛り上がる中、勝男は怒り心頭に発する。
「嘘つけ! そんな映画、聞いたことあらへんわ!! にゃんもおるんか!?」
「正確にはワンとニャンとポッポーがいるアル」
「何や、ポッポーって! ハトもおるんか!? って、もうええわ!」
ただでさえ、早く撮影に入りたい所に主演二人の病欠。
代理の役者を呼ぶまでの待機時間をなくすために素人の高校生から役者を選ぼうというのに、刻々と時間が過ぎていく。
「ええから、オーディション開始や!」
結局、あの監督さんの映画って有名なものないんだね、という○○の陰口を無視しつつ、勝男はオーディションを開始する。