第13章 【第九講】どんな映画にも一箇所くらい見所はあるよね。ない?
「まずは女子から行きましょうか」
講堂で待っていたのは、黒駒勝男という映画監督だった。
どのような映画を撮影するかざっくりと説明したのち、早速オーディションに移りたいと言う。
「○○さん、聞いたことある?」
「私、映画は見ないからなァ」
それに、たとえ有名監督でも、○○の記憶はここ数ヶ月しかない。
妙が知らなければ、○○も知らなくて当然だ。
「神楽ちゃんは?」
「見たことも聞いたこともないアル」
「そうだよね」
ジーッと、女子三人は黒駒監督に視線を送る。
「本人の前で何ちゅー話しとんねん!」
三人が話しているのは、勝男の目の前。
ヒソヒソと小声で話したとしても会話は筒抜けだが、そもそも声が大きい。
「軟弱な青春ドラマには興味ないネ。私は任侠映画一択アル」
「腹立つ生徒やなァ! 大体、ワシの出世作は任侠もんや! 『仁義なきジンギスカン鍋』知らんのかい!!」
そのタイトルを聞き、途端に神楽は瞳を輝かせた。
「マジでか! あの『仁義なきジンギスカン鍋』の監督アルか!?」
「そうや! 見直したやろ!」
映画好きでなければ、作品を知っていても監督を把握していないということは往々にしてあることだ。
「すごいアル! 親分の仇を討ちに向かった子分達の飼い犬が相手の組長に噛みつくシーンは圧巻だったネ!」
拳を握る神楽だが、勝男にはそんなシーンを撮影した覚えはない。