第13章 【第九講】どんな映画にも一箇所くらい見所はあるよね。ない?
3Zの生徒達は講堂へと移動中。
映画の主役になれるチャンスとあって、生徒達は浮足立っていた。
「この映画を機に、ハリウッドからオファーが来たりして! ヤッベ! スター街道まっしぐらなんですけど~!」
「お前にオファーすんのは精肉所だけだろ」
「んだと! 一本残らず髭引っこ抜いてやろうかァァ!!」
ハム子と長谷川が不毛な言い争いをしているかと思えば、
「銀幕デビュー、実家に電話しなきゃ!」
「銀幕デビュー、夫ノ実家二シラレタラ出演料ヲネコソギ取ラレテ私ニハキット一円モ残ラナイ……」
留学生コンビがそれぞれの実家に思いを馳せる。
我関せずといった風の生徒も中にはおり、その一人、沖田が隣を歩く土方に声をかけていた。
「どいつもこいつも浮かれてますねェ」
「ったく。何で全員で移動しなきゃなんねーんだ。希望者だけでいいだろ」
同じくオーディションに興味のない土方が文句を垂れる。
「土方さんはオーディション受けた方がいいですぜ」
「あ?」
「高校といやァ、学園ラブストーリーが王道でさァ。もう一人の主演が○○になったら、演技にかこつけて、あーんなことやこーんなことまで○○に出来ますぜ」
映画の中で両想いとなれば、最終的にチューは必至。
「下品な言い方すんな。そもそも、俺ァ、そーんなことは望んじゃいねェ」
またまたァ、と土方の本心を沖田は見抜いている。
「それに、演技で疑似恋愛をすることで、リアルに恋が芽生える可能性もありますぜ」
刹那、土方の脳裏に○○とラブラブな学園生活を送る光景が浮かんだ。
いやしかし、こんな男の口車に乗るかと、土方は己を正す。
「大体、□□にしても、そんな浮ついた映画に興味示すわけねェだろ」
こんな面倒臭いことは希望者のみで、教室で読書でもしていた方がマシだ。
きっと○○もそんな風に思っているはず、と思ったのだが、
「そうでもないみたいでさァ」
沖田は○○を指し示した。
○○は斜め前方を歩いている。
「一人で笑いながら歩いてんぞ、怖ェ!!」
その顔には、ニンマリと微笑が浮かんでいた。