第27章 猫舌の君にはまだ早い《後編》◉天喰環※
規則的に並んだ街灯、明るすぎて星が見えないのは少し残念だなぁ、そんなことを考えながら車の音に耳を澄ませる
「止まったかな、ごめんね?」
「俺が不甲斐ないせいだ・・情けない・・」
赤く染まったティッシュに目を落とした彼ががっくりと項垂れる
ぼうっと熱の浮かんだ瞳に捕えられると心の中を読まれてしまう気がして、私は慌てて鍵を探すふりをした
「送ってくれてありがとう、」
「夜道は・・危険だから」
繁華街から続く明るい大通り、くすりと笑った私に赤い顔の彼はまたフードで顔を覆う
こんな時間に家に上げるということはそういう事なわけだから、もちろんそんな事はできないわけで、それは考えるまでもないはずで
思いつく限りのさよならを浮かべては消して、優柔不断どころか本当はとっくに出ているかもしれない色めいた答えに、私はまだ無理やり蓋をしようと足掻いている
「久しぶりに会えて、嬉しかったよ」
ひとつ選んで声に出した言葉、一瞬大きく開いたその目が思い切り焦りを滲ませて、私はまた正解がわからなくなった
「いつか大阪案内もしてね、おいしいお店とか、」
「・・、めぐ」
ぶわっと身体が熱くなる、切なく響いた声音がきゅうっと胸の中を締め付けて
息が止まりそうなほど掻き乱された心が、一瞬でじわりと視界を滲ませていく
「他の男に・・先を越されると、思わなかった・・」
震えている手は彼が勇気を振り絞った証、恨めしく細められた目が苦しげに私を見つめている
「・・っ、」
一体私はどうしたいのだろう、綺麗な思い出にしたいんじゃなかったの
浮かんでいた幾つものさよならを彼の視線が、掠れたその声が、魔法みたいに消してしまう
じわじわと追い詰めるようなその目に呆気なく本心を見透かされて
揺れ動くまま零れてしまったのは、幾度となく頭の中で呟いてきた甘い音
貴方の去った図書室、貴方の無事を祈ることしかできなかったあの時、貴方の未来が明るいものでありますようにと願う夜
だって私の方が先に、好きだったから
「環・・くん」
思い切り見開いて数秒、声にならない音を発した彼が胸を押さえてへなへなと座り込む
いつもだったら思わず吹き出してしまうところなのに、火傷しているようにじくじくと痛い心がそうさせてはくれなかった