第2章 もう少しこんな距離感もいいのかもしれない※義勇視点
だが、いつまでも嘘で(故意についたわけではないが)桜に心配をさせるわけにはいかないと義勇は本当のことを口にした。
「俺はなんともない」
「本当ですか?」
「ああ」
義勇がそう言うと桜は心底安心したようにホッと息を吐き出した。
よほど自分の身を案じてくれていたようだ。
人から心配されるのは悪い気はしないが、桜からされるのはまた違う気持ちになった。
心配している桜の前で不謹慎ではあるだろうが、嬉しいような心が温まるような、そんな気分だ。
「良かったです。私のところにも来て、しのぶちゃんのところにも冨岡さんは向かっていたようなので怪我でもしたのかと思いました」
「……………」
どうやら桜は家に来た理由を怪我を負ったからだと思い込んでいたようだ。
桜に逢いに来たとは彼女は微塵も思ってくれていない。
目の前で能天気に構える桜に何をしに来たのか、本当のことを言えば彼女はどう思うだろう。
どんな反応をするのだろうか。
「あれ?だったらどうして冨岡さんはしのぶちゃんの所へ急いでたんですか?」
今すぐ触れたいーーそう思い桜の頬に伸びそうになった義勇の手がピタリとその場で止まった。
さきほどからお預けばかりだなと、内心苦笑いする。
そう思ってしまうのは下心を持っているせいなのかもしれない。
キョトンと頬に人差し指を当て、まるで分からないとばかりに不思議そうに今度は見上げてくる桜。
心配そうにしていたかと思えば、安心した表情を見せ、今はこの表情。
コロコロと変わる桜は見ていて飽きないし可愛くすら思えてくる。
が、触れるタイミングは完全に逃したと義勇は内心ため息をはいた。
「おまえが行くと言うからついて来ただけだ」
「師範!私は子供じゃないんです!一人でも大丈夫ですから!」
子供扱いしないでと叫ぶ桜の頭をワシャワシャと撫で回す。
髪型が崩れると抵抗する桜の姿も可愛くて仕方ない。
もう少しこんな距離感もいいのかもしれないと、膨れっ面で髪を手櫛で直す桜を見て義勇は思うのだった。