第3章 (その“虫”とは意味が違うんですけどね)
「あら?桜さん……と、冨岡さん?」
珍しく私と冨岡さんが一緒に屋敷に来たのを見て、しのぶちゃんが首を傾けていた。
普段手伝いに来ている私はともかく、冨岡さんがいることを不思議がっているようだ。
「どうされたんですか?おそろいで」
「しのぶちゃんのお手伝いに来たの。今日は忙しいと思ったから……」
助かりますとニコリと笑うしのぶちゃん。
今日は本当に手が空かないほどに忙しいようだ。
それもそうだよ。
今日治療を受けるのは私と任務を共にした隊士なのだから。
十二鬼月かと思えるくらい(結果、違ってたけど)なかなか手強かった。
村を救えなかったどころか、こんなに負傷者を出してしまって。
思い出してしまった悔しさから私は拳を震わせ強く握りしめた。
「桜……」
「桜さん……」
冨岡さんもしのぶちゃんも私が思うことを察してくれたのか、何も言わず黙ってくれていた。
きっと、今はどんな慰めの言葉を言っても私がそれを受け入れることができないのを付き合いの長い二人は知っていたからだと思う。
##NAME1のせいじゃない、桜は頑張った、どんな風に言われても、そうだよねと簡単に受け入れられるほどの任務ではなかった。
ただ、意味のない『ありがとうございます』を返すだけで。
重苦しくしてしまった空気を変えるように、しのぶちゃんが私の隣に並ぶ冨岡さんに満面の笑みを向け話題を変えた。
「ところで、冨岡さんは怪我をしたから来た……というわけではありませんよね?なぜいらしたのですか?」
「…………」
「答えられないようなので代わりに私が答えてあげましょうか?」
何かの意図が含まれたような言い方をするしのぶちゃんに冨岡さんは黙り込んでいた。
さすがしのぶちゃんは鋭いなと思う反面、冨岡さんにはそりゃそうだろうと私は心の中で思った。
こんな時に私の保護者のようにほいほい付いて来たというだけなのだから。
正直にそれを言えば、しのぶちゃんに毒を吐かれるのが目に見えているから冨岡さんも黙ったままでいた。
この二人の会話って、たまにおもしろいんだよね。
時々、冨岡さんが不憫に思えることもあるけど。