第2章 もう少しこんな距離感もいいのかもしれない※義勇視点
そういえば、胡蝶の屋敷に行くと出て行った桜が家の鍵をかけ忘れていることに気付いた。
桜が使う家は、もともと義勇が使っていたものを与えていたので幸いにも合鍵を持っていたのが幸運だった。
誤解を与えかねないが決して下心ありで持ち歩いているわけではない。(言い訳がましいし、他の男への優越感を持っているのも事実)
何かあったときのためだ。
義勇は合鍵で鍵をかけると急ぎ桜のあとを追った。
そして追い付いたところで今の状況になったのだが。
正直、服の上からとはいえ桜にこうして触れられていると思うとムズムズとしたものが心の内から湧き出てくるような気持ちになる。
目の前でサワサワと体をまさぐる桜は、きちんと何か理由があってのことだろうが、今の義勇にとってはある意味体にも心にも悪い。
都合よく解釈すれば、もしやこれは先ほどの続きを望んでいるのではとも思えた。
自分に何か期待しているんじゃないかと……そう思った義勇が桜の背中にそっと手を回そうとした時だった。
「冨岡さん怪我してませんよね?」
「………?」
唐突な桜の質問に、え?と義勇は目が点になる。
さきほどの会話から、体をまさぐられ、その結果の質問が今のだ。
なにを言い出すのかと見下ろした桜の表情を見た義勇だったが、どういう意味だ?と返すことができなかった。
彼女の瞳は心配だと訴えていて、声と表情を強ばらせていたからだ。
何を思ったかは知らないが桜は本気で自分の身を案じてくれている。
自分の深い蒼の瞳を真っ直ぐに見つめてくるその瞳から義勇は目を反らせなかった。
一言、ただ一言、俺は怪我をしていないと返せばいいのに、桜に心配されているというのと、彼女を今独占しているというのがあってすぐに言い出すことができなかった。
桜はいつも誰にでも優しい。
それは義勇だけでなく他者も入っている。
その優しさがこの瞬間だけは自分だけのものだと思うと義勇はたまらなく目の前の彼女が愛おしくなった。