第2章 もう少しこんな距離感もいいのかもしれない※義勇視点
赤い顔をして逃げるように去って行く桜の背中を義勇は黙って見つめていた。
腰を抱こうとしていた手はそのままに。
息を吐きながら早急すぎたかと少し反省。
桜への想いに気付いた日からというもの、それは日々強くなり。
それから自分の目が行き届くところに桜の姿がなければすぐに探すようになった。
階級“甲”にまでのぼりつめた桜は彼女の知らぬところで人気を集めていた。
強くて優しい桜、注目をあびないわけがなかった。
義勇と桜の関係は、ただの師範と弟子と周りの隊士は思っているに違いなかった。
実際そうで、まだそれ以上の関係になれない。
だからこそ、桜を他の誰にも奪われたくない義勇にしてみれば桜の存在が男達の話題にあがるのは面白くないし、任務中に他の男に庇われたりする姿に醜い感情を覚えた。
それは俺の役目だ。
柱としては最低、失格とさえ思える考えだ。
桜が隊を指揮することになれば陰で(男達から)見守り、自分に任務が入ればすぐに終わらせ駆けつけた。
それだけ入れこんだ女が下から見上げてくるなど、義勇にとって煽られていると思ってもいいところだった。
誘われていると勘違いし止まらなくなって、その頬に手を伸ばし腰に手を回し引き寄せようとしたところでーーするりとこの手から逃げられた。
「……………」
行き場を失った手をそっとおろし、義勇は息をはいた。
急にあんなことをして嫌われただろうか。
だけど、桜が他の男と仲良くする姿を見せられるとそいつにとられたような気がして義勇自身気が気でなかった。
出遅れて桜が他の男と恋仲になってしまったら。
そんなこと許せるはずもない。
本当なら祝福すべきことなのに、そうはできない醜い感情を落ち着けるように義勇は息をはいた。
師弟関係だったものが、いつの間にか彼女に惹かれていた。
稽古をつけ、共に任務に向かうたびに、いつしか桜に心奪われていった。
そんな桜に上目遣い(義勇の勘違い)で見られては、我慢できるはずもなく気付けば体が勝手に動いてしまっていた。
(嫌われただろうか)
義勇はもう一度ため息をついた。