第9章 ちょっと胸が痛んだだけなので……
冨岡さんが煎れてくれたお茶を少しずつ口に含みながら私は目の前に座る師範をチラリと盗み見た。
いつもなら、お茶に誘われても、疲れている冨岡さんの体を思ってお断りするのに緊張と動揺で頭が回らずお邪魔してしまった。
冨岡さんも、お茶に誘ったのだって社交辞令だったかもしれないのに、のこのこと付いてきて遠慮のない子だと思ってないだろうか。
普段から口数が少ない冨岡さんなので、こういう雰囲気になっても、いつもの通りなのか、怒っているのか表情から読み取ることができない。
(冨岡さん男の人なのに姿勢も正しくて飲み方もきれい)
冨岡さんとお茶を飲むことなんて今までなかったから、師範の意外な一面を垣間見れたようで得した気分になった。
指は男の人にしては細くて長いし。
手のひらは日輪刀を日々持っているせいかゴツゴツしていたけど。
そういえば、今度の任務ではどれくらいの人を冨岡さんは守って帰ってきたんだろ。
危機が迫った時、颯爽と現れた冨岡さんはきっと救世主に見えたにちがいない。
私には、いつもそう見えた。
隊士は冨岡さんの姿を見て安心もするし、気持ちも奮い立たされる思う。
男の人も女の人も誰もかれも、みんな。
命をかけて守ってくれる存在って本当に大きい。
柱が尊敬され人気が高いのはそこだと思う。
冨岡さんだってああ見えて(失言)女性に人気だしモテているのを、私は知っている。
自分の師範が好かれていることを嬉しく思う反面そう考えた瞬間、私の胸がチクリと痛んだ。
(?)
なにか針で刺されたようなその痛みに一瞬思考が止まってしまった。