第66章 畏れながら、この場でお館様に申し上げたいことがございます
「畏れながら、この場でお館様に申し上げたいことがございます」
「なにかな?」
穏やかな声で先を促す耀哉を前に、桜はゴクリと唾を飲み込んだ。
「手紙の内容で一つ納得いかないことがございます」
今度はみんなの視線が一気に桜に集まった。
みんなの注目を浴びる中、毅然とした態度で桜は続けた。
「私の名がそこにないこと納得ができません」
「それは桜が隊立違反をしたと言われることとなにか関係しているのかな?」
「いいえ。私は禰豆子さんに助けられたことがあります。すぐ近くにいた私を喰おうとするのではなく守ろうとしてくれたんです。彼女は他の鬼とは何かが違うと私は確信しています。禰豆子さんは人を襲わないと命を懸けても言えます。そのために必要なら、そこに私の名前も刻んでくださるようお願いしたいのです」
深々と土下座して懇願する桜に、炭治郎は今にも溢れだしそうだった涙を堪えきれずポロポロと流していた。
こんなにも禰豆子を思って、共に命を懸けてくれる者が三人もいてくれることに。
「だけどね、桜。万が一の時は君も切腹することになるんだよ」
「かまいません。禰豆子さんが人を襲うことは絶対にありません。……ですよね、炭治郎くん?」
「はいっ!!」
顔を上げて隣にいる炭治郎に確認をとるように尋ねる桜。
その表情は期待に満ちて晴れ晴れとしていたから炭治郎も自信を持って答えていた。
桜は命を差し出すことに躊躇いもない、その瞳には強い意思も感じる。
その誠意が伝わったのか耀哉が口を開いた。
「わかった。この手紙に桜の名を加えておくよ」
「ありがとうございます」
桜はもう一度深く頭を下げた。
「義勇も、異論はないかな?」
「………………」
耀哉が師範である義勇に確認をとるように尋ねた。
義勇の視線に桜は気が付いていた。
何を言い出すつもりなのかと、刺すような強い視線を。
「………異論ございません」
「!」
「!」
だから義勇が承認したこと、桜と杏寿郎は驚いた。