第66章 畏れながら、この場でお館様に申し上げたいことがございます
耀哉がもう来るなんて咄嗟に出たでたらめに近かった。
だが、それが功を奏したのか、実弥が一瞬見せた隙に桜の背後から炭治郎が跳躍して現れ、石よりも硬い頭で実弥の頭部に頭突きをくらわせた。
「っ!?」
その衝撃で実弥は倒れた込んだと同時に箱から手を離した。
その隙に炭治郎は二度と禰豆子が奪われないように背負い紐を強く握りしめ、箱をその背中に隠す。
「善良な鬼と悪い鬼の区別もつかないなら柱なんてやめてしまえ!!!」
「てめェェ……ぶっ殺してやる!!!」
散々にやられ頭に血が昇った実弥が炭治郎を殺しかねない勢いなのを見た桜は、実弥に日輪刀の切っ先を向けた。
二人の睨み合いが続く入り乱れた状況の中。
「お館様のお成りです」
この場にそぐわない少女二人の落ち着いた声が響き渡り、部屋の中の襖が開くと耀哉が姿を見せた。
この屋敷の主にして鬼殺隊を率いる長。
その瞬間、争い事が嘘のように静まり返った。
「よく来たね、私の可愛い剣士たち」
ひなきとにちかに支えてもらいながら、耀哉がゆっくりと縁側まで歩いてくる。
「顔ぶれが変わらずに半年に一度の“柱合会議”を迎えられたこと嬉しく思うよ。桜も来てもらうことになってごめんね」
「とんでもございません」
静まり返ったその場に耀哉の声がよく通って聞こえた。
炭治郎が初めて見る耀哉の容姿や彼の持つ独特な気配に動けないでいると、ものすごい勢いで実弥が炭治郎の顔を地面に押し付けた。
何をするんだと炭治郎が睨むように見上げた先には、好き勝手な場所にいた者たちを含め、ズラリと横一列に整列し耀哉に跪く柱達の姿があった。
もちろん近くにいた桜も炭治郎の左隣で跪いていた。
「お館様におかれましても御壮健で何よりです。益々の御多幸を切にお祈り申し上げます」
「ありがとう実弥」
姉妹に支えられながら、ゆっくり腰をおろす耀哉。
初対面の印象が悪いのもあり、実弥には知性も理性もないと思っていた炭治郎は、耀哉に敬意を示す態度に呆気にとられていた。