第65章 炭治郎の強く訴える声が柱には届かない
実弥の右手が腰にある日輪刀の柄に触れた。
「ありえねぇんだよ馬鹿がァ!!」
炭治郎を罵倒しながら抜刀した実弥は、躊躇いなく禰豆子の箱に日輪刀を突き刺した。
箱を貫通した日輪刀からボタボタと血が滴り落ちる。
禰豆子の体が傷を負った証だ。
その光景に義勇と桜の眉間には深く皺が寄り、しのぶさえも不快を表し眉根を寄せていた。
事情もなにも知らないで全ての鬼は悪だと決めつけて、抵抗するつもりもない鬼を刺すなど間違っている。
人の話を聞かない、無闇に襲う、これでは鬼と変わらない。
実弥は正義の名のもとに成敗のつもりかもしれないし、本来ならこれが鬼殺隊のあるべき姿かもしれないが、見た目こそ禰豆子は鬼だが本来の姿を見た桜は、その行為に嫌悪しか感じなかった。
炭治郎とて守りたかった妹を傷つけられて黙ってはいられない。
「俺の妹を傷つける奴は柱だろうが何だろうが許さない!!!」
「ハハハハ!!そうかい、よかったなァ!!」
後ろ手に縛られた状態なのに怒りに我を忘れた炭治郎は上手くバランスをとり立ち上がると、韋駄天のごとく実弥に詰め寄る。
実弥は挑発するような笑みを浮かべ、箱に突き刺した日輪刀を抜くと、今度は炭治郎にその刃(やいば)を向けた。
(あの体じゃ殺られる……っ!)
桜の動きは早かった。
それこそ、義勇と杏寿郎が追う間も無く桜は実弥の前に一瞬で姿を見せた。
実弥は相手が誰であろうと容赦したりはしない、いくら桜でも無謀すぎる。
義勇と杏寿郎の顔にも焦りが見えた。
炭治郎に振り下ろされる実弥の刃を桜は刃で弾き返した。
「!」
「!」
突然割って入ってきた桜の姿に実弥も炭治郎も目を見開いた。
さすが実弥の太刀さばき、桜の腕はその衝撃をビンビンと肌で感じていた。
そんな桜を実弥が忌々しげに見る。
「ケッ!上等だぁ!!コラァ!!」
目を吊り上げ実弥は桜に躊躇なく刀を振り下ろそうとする。
桜がもう一度身構えた時、
「やめろ!!もうすぐお館様がいらっしゃるぞ!」
「やめろ!!もうすぐお館様がいらっしゃる!!」
義勇と杏寿郎の声が重なった。