第60章 冨岡さんの言う通り、この鬼は他の鬼と違う
その様子を背中越しに禰豆子は見ていた。
身を呈して守ってくれた桜を。
そして刃を向けるカナヲから桜を庇うように禰豆子は前に出ると、両手をいっぱいに広げた。
まるで、それは桜には手を出すなと言っているようで。
そんな禰豆子の行動に桜は驚き目を見開いた。
(私をお兄さんと勘違いしてる?)
桜は禰豆子をもう一度背に隠そうとするが、禰豆子はそれを頑なに拒む。
お互いがお互いを庇い守ろうとして揉み合うようになる中で、桜は禰豆子と目が合った。
その瞳は桜のことを兄としては見ていなかった。
桜を他人だと、炭治郎以外の人間だと認識していながら守っているのだ。
(冨岡さんの言う通り、この鬼は他の鬼と違う)
桜の心の奥底にあった僅かな疑惑さえ、この瞬間に打ち砕かれた。
◆◆◆◆◆
桜のこととなると我を忘れて本気になる義勇に、しのぶはやれやれと言わんばかりに露骨な表情を浮かべていた。
現に、挑発を本気にした義勇に追い付かれてしまったしのぶは義勇にがっちりとタックルのように体を押さえ込まれている。
からかったことはよくないが、しのぶには言い分があった。
「鬼を斬りに行くための私の攻撃は正当ですから違反にはならないとは思いますけど、冨岡さんのこれは隊律違反です」
義勇の左脇腹に、まるで俵でも抱き抱えるような形でギリギリときつく押さえ込まれているしのぶは、食い止めるにしてもこれは少し扱いが乱雑ではないかと珍しく右のこめかみに太く青筋が張っている。
「桜さんの行動も、これも鬼殺の妨害ですよ。どういうつもりなんですか?」
「…………………」
「何とかおっしゃったらどうですか?」
しのぶが聞きたいのは炭治郎や禰豆子のことだとは義勇も理解できた。