第59章 誰のためにそこまで必死になっているのやら
刀と刀がぶつかり合う音が響きわたる。
鬼の討伐を目的とするしのぶの日輪刀と、その鬼の逃亡を手助けする義勇の日輪刀が激しく火花を散らし、弾きあった衝撃で二人とも後退した。
力で押しきれば、義勇がしのぶの刀を弾き飛ばすことは不可能ではない。
本気でそうしなかったのは単に足止めが目的なので時間稼ぎができればそれでよかったからだ。
少しでも炭治郎と桜を遠くに逃がすことができればーー。
「本気なんですね冨岡さん。まさか柱が鬼を庇うなんて」
しのぶとて、そんな義勇の考えに気付かないわけはない。
鬼を連れた少年を庇いたいのか、それともそれに付いていった桜を守りたいのか。
しのぶは無表情で立つ義勇に笑みを溢し日輪刀を下ろすことで戦う構えを解いた。
「あなたがその気だろうと、私はここで時間稼ぎに付き合うつもりはありませんので」
義勇が桜を大切にしたい気持ちは理解できても、やはり鬼を庇うことには理解できない。
しのぶは桜の友達という立場よりも、柱としての立場を選んだ。
桜が親友ならわかってくれるはず、本当に敵対したわけではないこと。
お互い、自分の信念に従って動いてるのだと。
しのぶがここに来たのは、この山に巣食う鬼の殲滅。
あの鬼が十二鬼月の仲間であろうが、なかろうが、そんなことはどちらでもいい。
「では、ごきげんよう」
「っ、」
この場での戦いを放棄し、しのぶは軽々と飛び上がると木の枝を使って頭上から義勇を追い越した。