第58章 どんな時でも私と冨岡さんはずっと君の味方です
炭治郎は逃げた。
禰豆子を抱いて必死に走った。
桜の治癒の助けもあって少し動けるまでにはなったものの、全回復とまではいかない体は辛かった。
逃がしてくれた義勇や桜はどうなっただろうか。
酷い目にあってないだろうか。
気になるが、全身の筋肉が痛み、その痛みを耐え走っているせいで呼吸も整えることができず、それ以上何も考えられなかった。
もう、息をするのさえも辛い。
でも足を止めるわけにはいかなくて、炭治郎は気合いだけで走り続けた。
「大丈夫ですか?」
「うぇっ!!?」
突然背後から声をかけられ炭治郎は驚いた。
そのせいでバランスを崩して禰豆子を落としてしまいそうになったのを、なんとか耐えた。
「すみません、驚かせましたね。大丈夫ですか?」
クスリと笑ってもう一度同じ事を訪ねながら、隣に並んだのは義勇と常に一緒にいた桜だった。
足音も気配も感じなかった。
匂いさえも……鬼の匂いに紛れていたのか、疲れすぎて感じなかったのか。
「代わりにおぶりましょうか?」
桜が顔を覗き込みながら炭治郎に声をかけた。
「へ、平気ですっ」
苦悶の表情を浮かべながらも、炭治郎はそれを強がりで返した。
本当は、もうこれ以上無理だというくらい体はとっくに限界がきていた。
それに気付かない桜ではないが、これ以上どんな言葉をかけても炭治郎が妹のことに関して意見を譲らないのはこれまでの彼を見ていて知っている。
その強がりに桜がクスッと小さく微笑みを溢した。
「あの……二年前に冨岡さんと一緒にいた春空さんですよね?」
「桜でいいですよ」
「桜さん、あの時はありがとうございました」
「話はあとで。まだ追っ手がいるかもしれませんから護衛につきますね」
桜は継子の存在を警戒していた。
しのぶと共に来ていた、カナヲの存在を。