第57章 俺はあいつの意思を尊重する
なぜ義勇がここまでして助けてくれるのかも分からないけど、とにかく今は妹を守りたい。
炭治郎は何とか動けるようになった体で禰豆子を横抱きに抱き上げた。
「すみません!!ありがとうございます!!!」
桜にもきちんとお辞儀して炭治郎はその場を全速力で離れた。
こんな時に、どこまでも律儀な子だなと桜は苦笑し炭治郎の背を見送ったあとで、義勇に振り向いた。
「冨岡さん」
「頼んだ」
「はい」
義勇にしっかりと返事をしてから、桜はしのぶを見た。
これは友達としても仲間としても裏切りになるだろう。
でも、これは義勇に命じられたからではなく、自分の意思だから。
義勇に頼まれていなくても、義勇に止められても桜は自分の意思で炭治郎たちの護衛につくつもりだったから。
「ごめんね!しのぶちゃん!!」
桜はしのぶに敵対する意思を伝えると共に謝罪し、山の奥へと炭治郎を追って消えていった。
しのぶはその背を黙って見送った。
桜が炭治郎と禰豆子を庇っていた姿を一度見ていたしのぶは、こうなることを予測していたように薄い笑みを浮かべて。
「冨岡さん、いいのですか?隊律違反ですよ?」
「あいつが決めたことだ。俺はあいつの意思を尊重する」
「本当に、それでいいのですか?」
「それであいつに下る処罰は俺が全て責任を取る」
揺るがない意思を双眸に宿した義勇。
似た者同士とはよく言うが、桜が義勇に似てきたのか、義勇が桜の性格に寄ってきたのか。
桜は柱であり師範でもある義勇の命に従ったわけでも命令に逆らえなかったわけでもなさそうだった。
確かに自分の考えで動いていた。
しのぶは、お互い惹かれ合い、信じ合う二人の関係を微笑ましくも感じる。
だけど、友を思うのとこれとは話は別だ。
柱として、隊律違反を見逃すことはできない。
(謝らなければならないのは私かもしれませんね、桜さん……)
しのぶは捕らえなければならない親友に心の中で心から謝った。