第57章 俺はあいつの意思を尊重する
しのぶが笑みを見せても、それが友好的なものではないことを炭治郎は匂いで感じ取っていた。
「坊やが庇っているのは鬼ですよ。危ないですから離れてください」
「ちっ……!!違います!いや違わないけど……あの、妹なんです!俺の妹で、それで……」
「まぁそうなのですか、可哀想に」
しのぶは眉尻を下げ同情するような素振りを見せるが、それも一瞬のこと。
「ではーー…
苦しまないよう優しい毒で殺してあげましょうね」
どんな理由があろうと見逃すつもりはないと言わんばかりに日輪刀を顔の前で構えたしのぶに炭治郎は絶句した。
情けをかけてくれているようで、実はそうではない。
説得など無理だ。
そして目の前に立つしのぶの強さを炭治郎は匂いで感じ取っているため、一人で彼女の目を欺き禰豆子を逃がすことも無理だ。
おまけに炭治郎自身はこの体だ。
それでも諦めたくはない。
そう思ったーーその時だった。
「動けるか」
「!」
逃げろ、そんなニュアンスが込められた義勇の言葉に炭治郎は顔を上げた。
屈んだままの体勢で日輪刀をしのぶに向ける義勇の姿に炭治郎は困惑した。
冷たい人かと思えば、情があったり。
いつも初めは対立するのに、最後に彼はいつだって炭治郎に助けの手を差し伸べてくれた。
義勇の仲間だと思わしき相手を敵に回してまで。
「動けなくても根性で動け。妹を連れて逃げろ」
「冨岡さん……」
もし、言われた通り逃げたら義勇はどうなるのだろう。
禰豆子を殺すつもりでいるこの人と争うことになってしまうのか。
自分のせいでそんなことにはなってほしくないと思うものの、炭治郎が禰豆子を守るには最早頼れる人物は義勇しかいなかった。