第57章 俺はあいつの意思を尊重する
「鬼とは仲良くできないって言ってたくせに何なんでしょうか。そんなだからみんなに嫌われるんですよ」
しのぶの口調は穏やかなのに、その声にはしっかりと怒気が含まれていた。
いつも笑みを絶やさない人の静かな怒りというのが一番の恐怖である。
桜の頬に冷や汗が流れる。
「桜さんも、今のは鬼を庇ったんでしょうか」
それが自分にも向けられると桜はビクリと肩を鳴らした。
しのぶは、なぜ自分が刀を向けられているのか不思議でならなかった。
蜘蛛になりかけていた少年を助け、蜘蛛の糸を操る鬼を倒し、山を駆け回ってまで義勇たちを探していた。
ようやく姿を発見したとき、二人のすぐ近くに鬼がいて危機が迫っているんだと思って刀を抜いたのに。
桜はその鬼を庇い、義勇はしのぶに刀を向けてくる、明らかに二人ともが鬼に味方をしたのだ。
しのぶが疑問に思うのも当然だった。
「しのぶちゃん!聞いて!」
「さぁ二人とも、どいてくださいね」
その疑問について話し合いを行うつもりは、しのぶにはない。
鬼は徹底的に排除する。
それは、しのぶが日輪刀を鞘に収めないことからもうかがい知れた。
桜が自分達たちの行いについて弁明しようとしても、しのぶは聞き入れてはくれなさそうだ。
しのぶは、笑みを浮かべたままスッと真っ直ぐ日輪刀の切っ先を禰豆子に向けた。
二人はなぜ隊律違反を犯してまで鬼を庇い守ろうとするのか。
そこまでして、その鬼にこだわっている理由がしのぶにはわからない。
「坊や」
「はいっ!!」
その矛先が自分に向けられた炭治郎は少々怯えた表情でしのぶに視線を向けた。