第56章 こんな形で再会するなんて運命ですよね
最期に累が人の心を取り戻したことを炭治郎はすごく喜んだ。
やはり、残忍な鬼の中には人の心を忘れているだけの鬼もいて、人だった頃を思い出すことができれば鬼は人に戻ることができるのだと感じた。
炭治郎が出会った母鬼と累がそうだった。
それが、死に際だったことが悲しい現実ではあるけれど。
もっと早く人の心を取り戻していれば、何か変わっていたのだろうか。
炭治郎がそんなやりきれない思いをしていると持ち主のいなくなった着物を容赦なく踏みつける者がいた。
義勇だ。
「人を喰った鬼に情けをかけるな。子供の姿をしていても関係ない」
義勇の何の感情も読み取れない眼で炭治郎は見下ろされる。
二年前、炭治郎が初めて出会った日と同じ目付きだ。
鬼を徹底的に排除しようとする者の瞳だった。
「何十年何百年生きている醜い化け物だ」
冷淡に話す義勇に炭治郎が眉根を寄せた。
義勇の言うことは正しいこともある。
だけど、それだけではないということを炭治郎は気付いたからだ。
悲しみのうちに鬼となってしまった者と、どうしようもない救いようのない鬼を、一くくりにして“醜い化け物”として扱うのは違うような気がした。
「殺された人達の無念を晴らすため、これ以上被害者を出さないため………もちろん俺は容赦なく鬼の頚に刃を振るいます。だけど鬼であることに苦しみ、自らの行いを悔いている者を踏みつけにはしない」
炭治郎がどうしてそこまで鬼に干渉するのか理解できない義勇は珍しくその眉根を寄せた。
傍で二人の会話に耳を傾けていた桜も、そんなこと考えたことなかった。
鬼は悪そのものだ。
そう思っていた。
鬼は欲望のまま人を喰うだけの醜い化け物だから、平和のためにも存在してはいけないと思うからこそ信念のまま斬ってきた。
驚くのは炭治郎の優しさは禰豆子にだけ与えられるものではなく、全ての鬼がその対象になりえるということだった。