第55章 まとめて始末してしまおうーー
ボソリと呟いた累の言葉は義勇の耳にしっかりと届いていた。
口角は下がり目を細め義勇は累を睨み付けた。
初めから鬼の存在を許すつもりも見逃すつもりもないが、桜に手を出そうとする輩は誰であろうと黙ってはおけない。
キッと義勇は強く睨み付けると同時に日輪刀の柄を握り締めた。
「血鬼術………」
指先から肘まで皮膚の色を赤黒く変化させ、最硬度の鋼糸をあやとり状に編んで回転させながら範囲攻撃する累の血鬼術。
炭治郎はぼんやりとする意識の中で、それを見ていた。
さっきよりも、もっとずっとすごい血鬼術だ。
自分も加勢しなければ、そう思うのに情けないことに体を動かすことができない。
それでも、体に鞭打って動かそうとすると、
「無理しないでください」
「…………」
頭上から優しい声が聞こえて炭治郎は顔を上げた。
ーーこの匂いも、覚えてる。
ふわりと着地する桜は炭治郎の姿に苦笑した。
全身斬り傷だらけ。
また、妹を守るために無茶をしたのだろう。
見た目は一回り大きくなっていても、その中身は少しも変わらない。
この子は間違いなく二年前に出会った少年だ。
自分より格上の相手でも妹を守るためなら臆することなく戦う勇気。
十二鬼月を相手に本当に良く頑張ってくれたと思う。
「あなたは………春空さん……?」
大きな丸い瞳が桜の姿をとらえた。
匂いで覚えていた。
炭治郎は鼻が利く子だから。
「簡単にですが、傷を治しますね」
「え、あ、はい……」
何を言われているのか理解できてない炭治郎。
彼女は今傷を治すと言わなかったか。
まだ十二鬼月も倒せていないし、そいつは大技を繰り出そうとしているのに、なにをのんきなことを。
累の姿が桜には見えないのか。
炭治郎がそう思っているのが桜には手に取るようにわかる。
感情がすぐ表に出る子なのだなと、桜もまたのんきなことを考えていた。
(これは、ほとんどしのぶちゃんに任せるしかないかな……)
見た目で判断して、軽い擦過傷と斬り傷だけでも治れば体の負担が和らぐかもしれない。
桜は手を翳した。