第54章 鬼殺隊の一人が十二鬼月と遭遇していた
あれからそう遠くない距離を行ったところで、木々の幹や枝に不自然な跡が残されているのを見つけた。
「これ、なんの跡ですかね?」
まるで糸のような細いものでつけられたような線の跡を見つけた桜が、その上を指先でなぞった。
刀で斬ったにしては線の幅が細いし、鬼の爪跡にしてもこんな風には残らない。
謎の跡は、その辺り一帯の幹にいくつも残されていた。
「桜」
「?」
名を呼ばれ義勇が見ている方向に桜も視線を合わせると血痕が点々と続いていた。
これもまだ乾ききっていない。
誰かがまだ戦っている。
二人は血の痕が続く先を見据えた。
◆◆◆◆◆
その頃、鬼殺隊の一人が十二鬼月と遭遇していた。
少年の名は竈門炭治郎。
偶然にも義勇があの時助けた少年だった。
時を経て立派な鬼殺隊に成長していた。
義勇の教えの通り左近次の元を尋ね、水の呼吸を習得し試練を突破してきたのだ。
これまでに鬼とも何度か交戦し勝利していた実力のある隊士である。
だが、今回は相手が相手なだけに状況は明らかに炭治郎の方が分が悪かった。
十二鬼月・下弦の伍である累の強さを、まざまざと見せつけられ力の差を思い知らされていた。
彼の使う血鬼術は鋼鉄のように硬い蜘蛛の糸。
これまで通用していた水の呼吸は彼の前では非力で、日輪刀さえも刃を折られてしまった。
血を吐き、身体中血が滲み、全身痛め付けられ、それでも歯を食いしばって日輪刀を振るう。
守るべき者、禰豆子のために。
そしてその禰豆子の血鬼術(ちから)も借りて累の頚を斬ることに成功し勝った。
そのはずだったのにーー
「僕に勝ったと思ったの?」
頚を切断されたはずの累は消滅することなく、なんと胴体と頚を切り離されたままジリジリと炭治郎に迫ってくるではないか。
驚く炭治郎に向けて、累は頚を斬られる前に自ら斬ったのだと言い放った。