第53章 あとは隠に任せる。おまえは俺と来い
「そこでジッとしていろ。己の怪我の程度も分からない奴が戦いに関わると桜の手を煩わせる」
「聞こえねぇよ!!速ェんだよ歩くの!!」
凍えてしまいそうなほど威圧感のある声だったが、どうやら距離はあるし声は小さいしで肝心な伊之助の所までは届いていなかったようだ。
桜からすると、多少の怪我で治癒能力を使うことはなんとも思っておらず。
むしろ役立てたいとさえ思っているのだが。
あの日以来、この能力を使うたびに心配する義勇を思うとずっと反抗しているのも忍びなくて。
伊之助には申し訳ないと思いつつ、手を離す気配のない義勇に大人しく桜は付いていく。
そんな桜の姿を見て、お気に入りの玩具を取られた子供のような気持ちだった義勇の心が、玩具を取り返したような気分になり心穏やかになったのは言うまでもない。
◆◆◆◆◆
義勇たちは何かに呼び寄せられるように、ある方向に走っていた。
その途中の会話でのこと。
「猪くん、ちゃんと隠に回収されましたかね?」
「…………………」
心配しているのだろうが言い方に少し違和感を覚え、桜が一瞬しのぶと重なって見えた義勇だった。