第53章 あとは隠に任せる。おまえは俺と来い
ところが、
「行くぞ」
「冨岡さん!?」
伊之助の手当てしようとした桜の首根っこを義勇が掴み自分のほうへ引き寄せた。
義勇の小さな嫉妬。
あの時、鬼の腕を斬り落とし振り返った先に、他の男を腕に抱く桜の姿を見て腹が立った。
他の男に向けられる、あの優しい眼差しも、微笑みも、触れている手も。
桜の全てが俺のものだ。
義勇は桜から手を離し付いてくるように促した。
ところが、肝心の桜が来る気配を感じられず義勇は振り向くと桜は一歩たりとも伊之助から離れてはいなかった。
「桜?」
「後から追いかけますから冨岡さん先に行ってください」
「なに?」
「この人を治療したら追いかけますから」
なぜそこまでその男を構おうとするのか、義勇は切れ長の目をより細め桜を見る。
いや、頭では理解している。
優しい桜が傷付いた者を放っておけない性格であることぐらい。
そして、それが正しい判断であることくらい。
だからこそ、それが義勇はおもしろくなかった。
自分よりも他の男を優先させようとしている桜にさえも義勇は苛立ちを隠せない。
こんな時でさえ止められない自分でも呆れるほどに独占欲が強いと思うがどうしようもなかった。
「あとは隠に任せる。おまえは俺と来い」
「冨岡さん!?」
納得していない桜の腕を再び掴むとグイグイ引っ張り半ば強引にその場から連れ出す義勇。
「ってオイ!!!待てコラ!!!」
すっかり蚊帳の外になっていた伊之助。
まだ義勇との勝負を諦めていないのか、それともこの状態をなんとかしてほしいのか、伊之助は縛られた状態で木の枝から吊るされたまま身を捩って義勇に叫んでいる。