第49章 俺に任せて君はここで待機だ
確かに浴衣だと、なにかと動きにくいかもしれない。
それを気づかってくれる煉獄さんの男らしい一面をまた一つ知った。
煉獄さんが一緒だと安心するのは、こういうところかもしれない。
(もちろん、師範といても同じくらいだよ)
私は鬼に斬り込んでいく煉獄さんの背中を頼もしく見る傍ら、他に鬼が現れてもすぐに援護にまわれるように日輪刀の柄から片時も手を離さなかった。
「炎の呼吸 壱ノ型 不知火!」
煉獄さんは、まず一体をあっさりと倒し、次いでもう一体の鬼の攻撃を難なくかわすと、
「炎の呼吸 弐ノ型 昇り炎天!」
それも瞬く間に頚を斬って勝負をつけてしまった。
その一連は流れ作業のように一瞬の出来事で、力の差は歴然。
私がその光景に呆然としていると、納刀しながら煉獄さんが戻ってくるところだった。
「なんともないな?」
「はい、煉獄さんのおかげです。二度も守ってくださり、ありがとうございました」
「気にしなくていい。これは俺の特権だからな」
「?」
なんの、特権?
にこやかに笑う煉獄さんに、私はそれを疑問に思いつつ笑顔だけ返した。
「あの、煉獄さんはなんともないですよね?」
「なんとも、とは?」
「煉獄さんほどの方ですからお怪我はないと思いますが……」
「そうか。俺の体のことを心配してくれたのだな。この通りだ、なんともない」
嬉しそうに顔を綻ばせて煉獄さんが笑った。
なんとも子供のように笑う人だな。
男の人だし歳上だけど、可愛いと思ってしまった。
「これ以上遅くならないうちに帰ろう」
「はい」
帰路を急いだ私たちだったけど、運悪く鬼と出くわすこと数回。
結局、帰宅は早朝になってしまった。