第48章 俺の大切な女性だ。勝手に触るんじゃない ※杏寿郎視点
先ほどの出来事が桜にとってかなりの面倒事だったのだろう。
杏寿郎は護衛役にご満悦なのと、他の男への優越感から口角を上げた。
もうひとつ、からまれたことで良いことがあったとすれば、あの男たちも目障りではあったが、他の男たちに対してより一層牽制するための一役をかってくれたことだ。
あの騒ぎ以降桜に向けられる視線さえもグンと減ったことも杏寿郎がご機嫌な理由の一つだった。
「煉獄さん」
「ん?」
透き通った赤色の飴で象った鳳凰の飴細工が杏寿郎の目の前に差し出された。
「お礼です」
ニコリと笑う桜のもう片方の手には透き通った青色の飴で象った龍の飴細工が握られていた。
「煉獄さんには燃えるような赤で作られたこれが似合うかと思いまして。そしたら私も食べたくなって対(つい)の龍を買ってしまいました」
杏寿郎は鳳凰の飴細工をジッと見つめた。
桜が自分のために買ってくれた飴細工。
自分のことを思って買ってくれたもの。
初めて大切だと思えた相手からもらった物に杏寿郎は心踊った。
嬉しくて食べてしまうのが勿体ないとさえ思えた。
作った人には失礼な話、たかが食べ物、それなのに好きな人からもらうだけでこんなにも大切な物に変わるのか。
杏寿郎は飴細工を桜の手からそっと受け取った。
「食べるのが勿体ないな」
「すごくきれいですもんね」
そう言いながらも容赦なく口に入れてしまう桜。
そんな桜の姿にも、杏寿郎の言う『勿体ない』は桜の言う意味とは違うのだが、と苦笑がもれた。
思い出が消えてしまわないように、ずっと手元に置いておきたかった。
隣では桜は美味しそうに頬張っている。
それを見て杏寿郎も鳳凰の飴を口に咥えた。
味わって食べなければ。
(甘いな……)
それは飴の甘さか、幸せを感じる甘さか。
杏寿郎は目の前の少女を愛おしげに見つめた。