第48章 俺の大切な女性だ。勝手に触るんじゃない ※杏寿郎視点
お昼になる頃にはあの豪雨が嘘のように空には日差しが戻っていて、服が乾くのを待つと帰りはすっかり夜になってしまった。
杏寿郎たちは、お世話になった仲居にお礼を伝え宿を後にした。
仲居が言っていた通り、雨が上がると同時に祭りの準備が始まり、今は屋台が所狭しと並び賑わいを見せている。
驚くのは、あの滝のように雨が降ったあとだというのに人出が多いこと。
杏寿郎たちも帰りがてら、その人混みの中を歩いていた。
「こんなところで鬼が出たら大変ですね」
「そうだな」
屋台を見て回っているというのに、まるで警備をしているかのような桜の真面目さに杏寿郎は苦笑した。
祭りを楽しんでいるんだか、町の警備をしているんだか。
桜は布で巻いた日輪刀を両手で抱き締めてキョロキョロと辺りを見回している。
「桜、今は肩の力を抜いて祭りを楽しもう」
「煉獄さん」
「それに、なにが起きても俺がいる。安心するといい」
杏寿郎がそう言ってやると、桜がやんわりと笑った。
「そうですね。心強い柱がいらっしゃるんですものね。頼りにしています」
「うむ!」
それからは気持ちが切り替わったように桜は屋台を見てはしゃいでいる。
女性らしい一面もあれば、隊員としての自覚をしっかりと持つ頼もしさもあり、そうかと思えば子供らしい一面もある。
色っぽさに惑わされ、その無邪気さに和む。
杏寿郎のことなど忘れたように桜は先々と進んで行く。
そして、あれやこれやと屋台を見ては、その度に商品を勧めてくる店主をかわす桜の姿を少し離れた所から杏寿郎は微笑ましく見守っていた。
ところが、
「そこのお姉さん」
「え?」
「一人で屋台回ってるの?」
飴細工の屋台を覗く桜に近付く二人の男がそこにいた。
声をかけられながら囲まれる桜の姿が杏寿郎の目についた。
途端に、杏寿郎の表情から笑みが失せ、すっと冷めていく。