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あなたがたった一度の恋でした【鬼滅の刃】

第47章 すでにここまで本気になっているとは ※杏寿郎視点






桜は今自分がどんな表情をして簪を見ているのか自覚しているのだろうか。

まだ小さな蕾のような恋心に気付いてはなさそうだが、かなり気になる相手からもらったものだと解釈すれば、桜が浮かべている柔らかな表情にも納得がいく。

可愛いとさえ思える顔だが、それは杏寿郎に向けられているものではない。

いつも快活な表情をしている杏寿郎も、そんな心の余裕はなく、簪を見つめる桜を真顔で見据えていた。

彼女にあのような顔をさせてしまう相手に杏寿郎は妬いているのだ。



「本当にいないのか?」

「いませんよ。これは冨岡さんからいただいたんです」

「冨岡から?」



探るように聞いた質問に返ってきた意外な人物の名前に杏寿郎は目をぱちくりさせた。

それからなるほどと目を細める。

初めは単に師範と継子という関係だったかもしれないが、男と女。

稽古など近くにいる機会も多いのだ、恋が芽生えない理由もない。



(よもや、冨岡もなのか?)



他人には興味ないと思っていた義勇もなにかと桜のことは気に掛けているようで。

過保護なくらい義勇が桜を構っているように見えたのは、気のせいではなかった。

好いた相手を守りたいという気持ちの表れだ。

杏寿郎がこの短期間で心奪われるくらいなのだ。

それ以上の時間を過ごした義勇が桜を好きになるのは当然のようにも思えた。

贈り物をしているのがその証拠。

それを考えると、義勇は自覚しているようだが、桜自身は自分が恋していることには全く気付いてないようだ。

義勇と争って桜を奪うつもりもないが、簡単に諦めるつもりもない。

恋に気付いてない間が、こちらへ振り向かせるチャンスとも言える。



簪をもらった日の出来事を楽しそうに話す桜をどうこちらへ向けてやろうか。

杏寿郎はテーブルに頬杖をつき、薄い笑みを浮かべその姿を眺めていた。






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