第46章 やけに色っぽいな…… ※杏寿郎視点
「煉獄さん、中に入りましょう?」
桜は杏寿郎に声をかけると、先に宿屋に入って行ってしまった。
いつもは後頭部で一つに束ねられ垂れ下がった髪に隠されているうなじが今は丸見えで。
(今日の桜はやけに色っぽいな……)
それを目で追っていた杏寿郎はどうしたもんかと珍しく困ったように息をはいた。
桜に遅れて杏寿郎が宿の中に入ると、仲居が桜の格好を見て口元に手を当て恥ずかしそうにしている姿が目についた。
相手が女性だからまだいいが、あんな姿を他の男には見せられない。
杏寿郎は桜の傍に寄ると、その肩に自分の羽織をかけた。
杏寿郎との体格差もあり、羽織は小柄な桜の体をしっかりと隠してくれた。
「桜、あまり役に立たないだろうが少しはマシになるからこれを羽織っていろ」
「煉獄さん?」
上目遣いで見られたのと、恥ずかしそうにキュッと自分の羽織を握りしめる桜の姿に杏寿郎は自分の心臓も一緒に鷲掴みされた気分だった。
その姿は、男なら人目も気にせずこのまま抱き締めてしまいたくなるほど効果は絶大で。
そんな時、杏寿郎にとって桜に触れることができる、とても好都合な口実ができた。
桜がなぜか杏寿郎から距離を置こうと少し動いたのだ。
だから桜の肩を抱いて杏寿郎は自分のほうへと引き寄せた。