第46章 やけに色っぽいな…… ※杏寿郎視点
杏寿郎は担当地区の警備を終えて帰宅する途中、突然の豪雨にあってしまった。
多少の雨なら濡れて帰るところだが、こうも降られては雨宿りが必要だ。
すでに長時間この滝のような雨の中走っていたため、隊服にまで水が染み込んでびしょ濡れになってしまっている。
(む!)
どこか休憩できる場所でもないかと思っていると、ちょうどよいタイミングで宿屋を見つけた。
すでに先客の女性が軒先の下で浴衣の裾を絞って水気を切っているところだった。
急いで自分も軒下に入り込み滝のように降る雨から逃れた。
「よもやよもや。このようなどしゃ降りにあうとは……」
もう頭のてっぺんから足の爪先までぐしょぐしょで、頭を軽く左右に降り水気を飛ばしていると、
「煉獄さん?」
聞き覚えのある声で名前を呼ばれ、そちらを振り向いた。
一瞬その容姿から誰だか判断できなかったが、じっと顔を見つめていると見覚えがあった。
「………桜か?」
杏寿郎は戸惑っていた。
今、目の前にいる桜はいつもの隊服に羽織という格好ではなく浴衣を着用している。
髪もいつものように一つに束ねてはいるが、頭のてっぺんでお団子にして簪まで挿しているではないか。
おしゃれをして、余所行きの姿だ。
普段の桜とは違う見慣れない彼女の姿は、大人の女性のように艶(あで)やかで、杏寿郎の胸は早鐘を打っていた。
冷静に冷静にと思えば思うほど、なぜか意識してしまう。
それを誤魔化すため杏寿郎は羽織の水を絞り出す作業を始めた。
「そんな格好でどうした?」
「用があって、その帰りなんです」
なるほど、それでそのような格好なのか。
雨で濡れた髪から滴る雫、水分を含んだ浴衣は桜の体にピッタリと張り付いて彼女の体の線をより強調させていた。
おまけに乳押さえの形まではっきりくっきりと見えて。
少女と呼ぶにはあまりにも色気がありすぎる。
杏寿郎はその魅力の虜りなりそうだった。