第45章 私たちただの先輩と後輩という立場なんですよ!
傍(はた)から見ると私と煉獄さんは夫婦に見えたりするんだろうか。
そんなこと言われたのは初めてだ。
私もけっこう気が動転してるけど、煉獄さんの顔はそれ以上に見える。
普段からどこを見てるかわからない瞳が泳ぎまくっている。
「あら?違いましたか?」
「はい!私たちただの先輩と後輩という立場なんですよ!ね?煉獄さん!?」
「彼女の言うとおり!今はまだそういう関係だ」
「そうでしたか。これは失礼いたしました」
ハッハッハッと豪快に笑う煉獄さんに、仲居さんも自分の早とちりだったことにオホホと苦笑いをこぼしていた。
そして、仲居さんは冊子をペラペラとめくってなにやら確認を始めた。
「二部屋空いておりますが、あいにくと部屋同士少し離れております。それでもかまいませんか?」
「大丈夫ですよね、煉獄さん?」
「うむ」
「ではすぐにご準備いたします。お風呂もご用意しますから冷えた体を暖めてください」
「ありがとうございます」
やっとあったかいお湯に浸かれる。
この肌にまとわりつくドロドロの浴衣を早く脱いで解放されたかった。
煉獄さんの羽織の下から浴衣の感触を確認して、ようやく自分の姿に気づいた。
ずぶ濡れになった浴衣が素肌にピッタリと張り付いて乳押さえの形まで、はっきりくっきり見えていたのだ。
(二人の顔が赤い理由はこれだったのね!?)
これはどう考えても恥ずかしい!
煉獄さんも仲居さんもお互い一目惚れしたんだと思ってたけど、実は私の姿にただ目のやり場に困っていただけだった。
(だから煉獄さんは羽織を………)
私は煉獄さんの優しさを改めて感じ、胸元をより一層隠すように煉獄さんの羽織を抱き締めるように強く握りしめた。
「新しい浴衣もご用意しますね」
「すみません。助かります」
「いいえ。汚れたお洋服は洗濯しておきますから、用意しますカゴに入れておいてください」
「何から何まで世話になる」
「とんでもございません。ではこちらへ」
仲居さんが大浴場へ案内してくれようとしたその時、これまた私たちみたいにずぶ濡れになった男の人が中に入ってきた。