第44章 煉獄さんと連れだなんて自分が恥ずかしい……
奥から仲居さんが笑顔で出迎えてくれた。
「ようこそ、いらっしゃいませ。この大雨の中、大変でしたね」
「もうずぶ濡れです」
「あら、まあ………」
苦笑する私の姿を見て仲居さんが口元に手を当てて恥ずかしそうに目のやり場に困ったように、あちこちの方向に目を動かしている。
どうしたのだろうと不思議に思っていると、肩にバサリと何かがかけられた。
「桜、あまり役に立たないだろうが少しはマシになるからこれを羽織っていろ」
「煉獄さん?」
見上げると少し頬を赤くした煉獄さんが真正面を見ながら隣に立っていた。
私に話しかけているんだろうけど、その目はどこを見てるんだろ?
ふと、私は仲居さんと煉獄さんを交互に見て、なるほど、そういうことかと納得した。
仲居さんも煉獄さんも顔を赤くしてるし、お互い見つめあったり視線をはずしたりしてるから、これは恋に落ちたなと直感した。
煉獄さんは鼻筋が通ってキリッとした目付きに、筋肉もしっかりついててガッシリとした体格をしていてカッコよく見えるし、今なんて濡れた髪からポタポタと落ちる雫が色っぽく見えるし。
仲居さんはすごく美人だ。
その間に挟まれた私はというと、小汚ない格好で女らしさなんかひとつも感じられなくて。
それを自覚した瞬間、思わず煉獄さんの羽織をキュッと握りしめていた。
煉獄さんと連れだなんて自分が恥ずかしい……。
「急で申し訳ないが空いている部屋はないだろうか?」
少し距離を取ろうとした私の肩を抱いて引き寄せた煉獄さんと私を、仲居さんが驚いたように交互に何度か見てふんわりと笑ってこう言った。
「はい。すぐに一部屋ご用意致しますね」
「助かりまっ…………………一部屋!?」
「ありがたっ…………………一部屋!?」
後半、見事に私と煉獄さんの声がハモった。
仲居さんが口にした『一部屋』という言葉に一気に意識をもっていかれたからだ。
二人して驚いた顔して素っ頓狂な声を出すから仲居さんは少しキョトンとした表情をして爆弾発言を投げてきた。
「はい。お二人はご夫婦なのでしょう?」
「え?」
「え?」
私と煉獄さんは同時に固まってお互い顔を見合わせた。