第44章 煉獄さんと連れだなんて自分が恥ずかしい……
ある日、珍しく遠出した帰りのこと。
もう昼が近いというのに大雨のせいで夜のように暗い。
突然のどしゃ降りにみまわれた私は、その中をずぶ濡れになりながら走っていた。
「まいったなー」
近くに藤の家でもあればいいんだけど、あいにくと立ち寄った町にはなくて。
宿屋を探してこの雨の中を走って探した。
お気に入りの浴衣が汗と雨に濡れて肌にまとわりついて気持ちが悪い。
早く着替えたい。
ようやく一件の宿屋を見つけることができた私はその軒先で浴衣の袖や裾を絞って水気を切っていた。
そこに私と同じように傘もささず、この宿屋に駆け込んできた人がいた。
「よもやよもや。このようなどしゃ降りにあうとは……」
聞き覚えのある声に横を見た。
炎を連想させる羽織。
燃えるような髪色。
「煉獄さん?」
「………桜か?」
やっぱり煉獄さんだ。
その煉獄さんは私のことをキョトンとして見ている。
今日の私はいつもの隊服に羽織という格好じゃなくて、余所行きの浴衣を着ている。
それと、髪もいつものように一つに束ねてはいるけど、後頭部でお団子にしてるから一瞬私が誰だかわからなかったのかもしれない。
「そんな格好でどうした?」
「用があって、その帰りなんです。煉獄さんは任務の帰りですか?」
「このすぐ近くが俺の警備地区だからな、見回りの帰りだ。お互い急な雨でとんだ災難にあったな」
「ほんと。もうびしょびしょです」
「……………………」
早くお風呂に入りたかった。
この、汗と泥でドロドロになった体を洗い流したい!
「煉獄さん、中に入りましょう?」
「む………そうだな」
明朗快活な表情はそのままに少し驚いたように目を大きく開いて、羽織を絞った動作のまま、なぜか固まっている煉獄さんに声をかけて私は先に中に入った。