第43章 師範からもらった物、一生の宝物にしよう
ふと、回りにいる若い女性たちの視線を感じた。
その視線を独り占めしているのはもちろん冨岡さんなわけで。
みんなが頬を染めて冨岡さんの顔をうっとりとした表情で見つめている。
私もつい見慣れた冨岡さんの横顔をチラ見していた。
(うん、カッコいいかもしれない
………………けど、)
隣を歩いていることに少し優越感を持つ反面、女の人たちからの妬みのこもった視線も痛いほど感じる。
刺々とした鋭い視線がグサグサと突き刺さり、私はもう身を縮こませて歩くしかなかった。
「どうした?体調が優れないのか?」
そんな私の様子に気付いた冨岡さんが声をかけてくれた。
「いえ、回りの視線が………」
体はなんともないんですけど、心がね。
と思うけど言葉にはしないで口をつぐむ。
冨岡さんは自分に向けられている溶けるような熱い視線に気付いてないんだろう。
心配してくれるのは嬉しいし、ありがたいんだけど、原因はあなたなんです。
とも言えなかった。
「ああ、刀を持ち歩いているせいだろ。気になるなら背中に隠しておけばいい」
「そ、そうですね………」
と、見当違いな言葉が返ってくるあたり予感は的中、まったく気付いてなかった。
こっちを(主に冨岡さんを)見ているのが女性だけだってことに気付いてください。
そして、その視線が向けられているのが刀じゃなくて冨岡さん自身だということに気付いてください。
心の中でどれだけそう叫んでも気付かないのは本人ばかり。
(こうなったら!少し離れて歩こう)
もうこの視線から逃れたくて私はどこか適当な店に一人逃げ込みたくなった。