第42章 運命に負けないで頑張って
「狭霧山の麓に住んでいる鱗滝左近次という老人を訪ねろ。冨岡義勇に言われて来たと言え。
今は日が差していないから大丈夫なようだが、妹を太陽の下に連れ出すなよ」
「?太陽……?」
冨岡さんから与えられる情報の多さに少年は整理しきれていないのか困惑の表情を浮かべている。
とくに『妹を太陽の下に連れ出すな』という言葉に引っ掛かりがあるようで難しい顔をしていた。
「鬼は私たちの持つこの“日輪刀”という特別な刀で頚を斬られるか、太陽の光を浴びることで死ぬんです」
私は自分の人差し指で喉元を横一文字に斬る仕草と、そのあと人差し指で空を指した。
「そうなると鬼は塵となってこの世から消え去ってしまうので、気を付けてあげてくださいね」
脅すつもりではなかったけど、私の忠告を聞いた少年の表情がますます強張っていく。
それからコクコクと頷き返しながら妹をギュッと力強く抱き締め直していた。
「……………行くぞ」
踵(きびつ)を返し一瞬で姿を消した冨岡さん。
それを見て驚いている少年を私は見つめた。
冨岡さんが鱗滝さんを紹介したということは、この少年たちとはまた会うことになるのかもしれない。
「運命に負けないで頑張ってください」
人間と鬼というねじまがった関係を断ち切り、絆というものを感じさせてくれた二人。
次に会うことがあれば、きっともっと成長した姿を見せてくれるんだろう。
私は少年に一礼して冨岡さんを追った。