第3章 (その“虫”とは意味が違うんですけどね)
しのぶちゃんは、冨岡さんは用事もないのにまたノコノコと、と思っているのだろうか、その声には少しほんの少しだけ怒気が含まれていたような気がした。
「桜さんの虫除けにいらしたなんて、よほど暇をもて余してるんですね。羨ましいです」
そんなしのぶちゃんの台詞に私はギョッとしてしまった。
しのぶちゃんが今まで私のことをそんな風に思っていたのかと知って軽く衝撃を受けてしまった。
こう、脳をガツンと殴られたようなーー
自分で言うのもなんだけど、年頃の娘にひどすぎるよ。
「しのぶちゃん!!」
「?」
「?」
確かに忙しくて任務に駆け回っていた日なんて、まともに体を洗える時なんてなかったけど。
それでも帰れば必ず身も、身の回りも綺麗にした。
それなのにーー変な虫がまとわりついているような言い方、思春期はとうに過ぎてしまってるけど傷つく。
急に声を荒らげた私に冨岡さんとしのぶちゃんが同時にこちらに振り向いた。
「私毎日お風呂に入って全身キレイにしてるから臭くもないし変な虫が寄ってきたことなんてないからっ!!」
年頃の娘が不衛生でいられるものかと全身を使ってそう訴えた。
そしたら、しのぶちゃんも冨岡さんもポカンとしていた。
普段、大きな声を出さない私が大声を出したことにか、綺麗にしているということにか、二人がどちらの言葉に驚いたかは知らないけど、とにかく不衛生ではないと主張できた。
でも意外そうな二人の表情は不服だけどね。
私がふんぞりかえってみせると、二人が同時にため息を吐くのを見て、なんで?って思う。
え?説得できてない?
(その“虫”とは意味が違うんですけどね)
しのぶが心の中でそうつっこんでる隣で、義勇はというと全身をくまなく洗う桜の姿を想像したのか顔を真っ赤にし、うつむき加減で口元を掌で覆い隠していた。
義勇も落ちついているようでまたまだ年頃。
しかも惚れた女の風呂事情となれば想像しないはずはなく。
「冨岡さん、桜さんでおかしな想像をしないでくださいね」
しのぶにつっこまれ義勇は、ギクッと肩をビクつかせ、桜は二人が何の話をしているのか不思議そうに見ているのだった。