第42章 運命に負けないで頑張って
「少し待て」
冨岡さんは鬼を少年の隣に移動させたあと、何か作業を始めた。
そんな冨岡さんをそのままにして私は少年のほうへ歩み寄った。
しゃがんで気を失っている少年の顔を覗き込んだ。
妹を取り戻すために無謀にも冨岡さんに刃向かい返り討ちにあったんだっけ。
斧を持っていたとはいえ刀を持つ相手に無鉄砲な子だ。
鬼を抑えることができなかった自分が、鬼を簡単に取り押さえた冨岡さんに勝てるはずもないのに。
この鬼だって、あらがうことで自分の立場を悪化させ冨岡さんに頚を斬られるとは思わなかったんだろうか。
それに、鬼が人を喰うという感情以外の感情を持つことがありえない。
勝てないとわかってもお互いがお互いを守ろうと振る舞う。
冨岡さんや私の考え方を大きく覆されたような気がした。
冨岡さんはこの二人に確かな何かを感じたからこそ戦うことを放棄し助けた。
(鬼を治療したら隊律違反になるのかな……)
とくに妹のほうはひどい。
放っておいても鬼だからそのうち治りはするだろうけど。
それが人を襲う引き金にもなりかねない。
(怪我、か………)
そういえば、出会った時からこの鬼は傷を負っていたっけ。
羽織っていた浴衣に血がベッタリとついていたし。
例えば、仮にこの鬼があの家族を襲ったとして、あそこにいた人間の中に、鬼にこれだけの深傷(ふかで)を負わせることができる者がいたとは考えにくいかもしれない。
少年が言うように他にも鬼がいたというほうがしっくりくるような気もするけど。
どこか遠くで鬼殺隊の誰かに斬られ再生のためにここで襲ったという考えも捨てきれない。
(どちらにしても、冨岡さんが決断したことなら私はそれを信じて従うだけ)
そう決めて私は鬼の治癒を始めた。
「能力(ちから)を使うのか?」
「はい。………でも、やっぱりまずいですかね?鬼を助けるというのは」
声をかけてきた冨岡さんを振り返り見上げると、その手には竹筒でできた何か握られていた。