第41章 冨岡さんを威嚇している。
冨岡さんと少年の間でどんなことがあったかはわからない。
冨岡さんが少年になにをしたのかも。
だけど、腹を立てたこの鬼が冨岡さんに殺意を向けているのだというのは理解できる。
(人間のために鬼が怒りをあらわにするなんて)
空腹さえも越えた人と鬼の絆を垣間見た気がした。
鬼が牙を剥き出しにして冨岡さんを爪で切り裂こうとしている。
それを難なくかわす冨岡さんには、もう戦う意思も頚を斬る気もないのだと知った。
鬼の攻撃を身軽にかわしながら冨岡さんが日輪刀を鞘に収めたのが見えたから。
(これが兄弟愛だというの………?)
これまでの鬼は、大丈夫だからと信じ庇おうとする家族をなんの躊躇いもなく喰い殺していた。
鬼になってしまえば理性はなく、家族のことも忘れ、欲望のままに動く。
そんな場面しか見てこなかった。
いや、むしろそれが当たり前の話なのだ。
だから、今回だってこれまでと同じ結果になると信用しないつもりだったのに。
こんな光景を見せられたら二人のこと信じられずにはいられない。
冨岡さんが鬼の頚に手刀を打ち込み気絶させたことで終結した。
それを見計らい私は冨岡さんの背後に降りた。
「戻ったか」
「はい。鬼が潜伏している様子はありませんでした」
「そうか」
「それよりも、いったいなにがあったんですか?」
今の展開についていけてない。
家族愛など容易く砕け散りゆく脆いものだと思っていた。
実際、少年がどんなに庇おうとしても鬼は人を襲おうとしていた。
それが、この短時間で鬼の心にどんな心情が芽生えて、その心にどんな変化が起きたというのか。
そして冨岡さんにも。
私がこの場を離れている間になにが起きたのか気になって説明を求めると、冨岡さんは長々と最初から話してくれた。
冨岡さんの話でどうしてこんな流れになったのかはわかった。
「これからどうするんです?」
このままでは、いつまた人を襲おうとするかわからない。
感情の変化なんて一時的なものかもしれない。
他の人間には牙を剥くかもしれない。
私は目を閉じた鬼を見てそう思った。