第41章 冨岡さんを威嚇している。
冨岡さんの方は今どうなってるんだろ。
鬼はもう殺されてしまったんだろうか。
ーーて、なに私は鬼の心配をしたようなことを思ったんだろ。
あれは生かしておくべき存在ではない、斬るべきものなのに。
(だめだめ。今はこっちに集中)
気にしてる場合じゃない。
あの場で私にできることがないからこうして偵察に出てきたのに。
少年が言うようにあの家族を襲ったのが妹でなければ他に鬼がいるはずなんだけど。
私は躍起になって周辺を捜索した。
(足跡もないし、なんの痕跡も見当たらない……)
雪の上は他に真新しい足跡なんてないし。
周辺の枝も、変に折れたものや曲がってるものもない。
いくら鬼でも痕跡をまったく残さず移動するなんてことは不可能なはず。
(となると、鬼はあの一体だけ………)
やっぱり、あの少年が嘘をついていたのかもしれない。
これ以上捜索を続けても手がかりは掴めなさそうだし、冨岡さんのところへ戻ろう。
もう向こうは決着がついている頃かもしれない。
ーーそう思って戻ったのに。
帰ると事態は少し変わった方向に動いていた。
(なに、この状況………)
手頃な枝に着地した私はその光景に驚いた。
信じられないものを私は今見ている。
鬼が雪の上に倒れこんでいる少年の傍にいるんだから。
冨岡さんが鬼に逃げられているなんてこと、あるはずない。
あの鬼くらいでは自らの力で冨岡さんの手から逃げることなんて不可能だ。
それに、
(どうして鬼が人間を………っ)
あの鬼は冨岡さんから逃れただけでなく、さっきまで喰おうとしていた少年の前で庇うような動作で冨岡さんを威嚇していた。
あれは間違いなく守ろうとする動作だ。
少年の傍で膝をつき両手をいっぱいに広げて唸りながら冨岡さんを威嚇している。
あの瞳(め)は大切な人を守ろうとする意思の表れだ。