第41章 冨岡さんを威嚇している。
「待ってくれ!禰豆子は誰も殺してない!!」
妹が人を喰ったなんて兄なら信じたくないのは当然。
家族なら誰もがそう思うのは当たり前のことだ。
だけど、実のところは少年は喰われかけていたし、私は血まみれで息絶えた人をさっき見てきた。
これまでに見たのはこの鬼一体のみ。
その鬼が誰も殺してないなど信じられるわけがなかった。
「俺の家にはもう一つ嗅いだことのない誰かの匂いがした!」
「!……………君は鼻が利くの?」
まるで犬並みの嗅覚を持つような言葉を匂わせた少年に、私は育手のことを思い出した。
私がそこに引っかかったのを知った少年が視線を私へと移してきた。
もしかして、冨岡さんは無理でも私なら説得できるかもと思われたのかしら。
「そうです!でもそれは禰豆子の匂いとは違う!みんなを殺し……たのは多分そいつだ!!」
もし、それが事実であるなら、さっき見た家族を襲った鬼は別にいるということになるけど。
それも少年が本当のことを言っているならの話だ。
でも、少年が本当に鼻の利く人物で、彼の言うことが本当なら鬼はもう一体この近くに潜んでいる可能性を捨ててはいけないと思う。
完全に少年の言っていることを信用したわけじゃないけど、私がここにいてもできることは何もないし。
「冨岡さん、少し偵察に行ってきます」
「なぜだ」
「彼の話が本当なら近くに鬼が潜んでいる可能性もあると思います。私たちの師範と同じように彼も鼻が利くのであれば、その話をないがしろにしてしまうのは危険だと思いませんか?」
「…………………わかった。気を付けろ」
返事は少しの間をおいて返ってきた。
冨岡さんは私にまで少年に話しかける時と変わらない声の低さと口調で少し怖かった。
少年の肩をもったわけではないけど、反抗的な感じだったのが気にくわなかったのかもしれない。
冨岡さんを裏切ったわけでもないし、少年の味方をしたわけでもない、私はただ危険が残ってないかを心配していただけなのに。
モヤモヤとしたまま私は数歩下がってからその場を離れた。
(声の低さと口調は桜一人を行かせることに心配と不満があったからで、別に怒っていたわけではない。)