第5章 懐古と芽生と安らぎと
3人が駆り出されたのは、山口、月島がかつて在籍していた町内バレー団の小学生向けの入団体験イベントだった。
今のコーチが島さん…もとい、明光の社会人バレーチームの先輩ということもあり、急な欠員の補充という名目で白羽の矢がたったのである。
山口やは元々の世話好きな性格が幸いして、小学生の相手も卒なくこなしていたが、そんな中、月島は…
「にぃちゃん、でっけー!」
キラキラした目でこちらを見てくる男児に
「は?」
とさもうるさいというように素で返すと
怖い人認定されて避けられていた。
その度に明光が月島をしかり、ペコペコと謝って回っていた。
…不憫なお兄さんである。
「あっちゃー、けーくん今日も尖ってるね」
が明光の近くに様子をうかがいにきた。
「本当にな。昔の可愛い蛍はどこへやらだ。…まあ、多分俺のせいなんだけど」
ふう、と息を吐いて何処か遠くを見つめる明光。
小学生に向けて無表情で淡々とボール出しをする月島はさながらロボットのようだ。
この兄弟に一体何があったのだろう…。昔は月島も明光が大好きでキラキラした憧れの目を向けていたはず…。
も明光と一緒に遠い日の記憶を体育館に重ねていた。
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帰りの車の中は行きと違い随分と静かだった。
帰りもを助手席に乗せようと思っていたが、獰猛な二人のガーディアンによってそれは阻まれてしまった。
バックミラー越しに3人の姿を確認する。
を真ん中にすうすうと肩を寄せ合って眠る弟たちは幾分幼く見える。
思わず可愛くて笑ってしまう明光だった。
…後で写真撮って待ち受けにしよう。そう誓った明光はまた視線を前方に戻したのだった。