第5章 懐古と芽生と安らぎと
結局の行きたい!の鶴の一声で、訳も分からないまま三人は明光の運転する車に揺られている。
「なんでこんな事に…って思ってる?ツッキー?」
「うるさい山口」
窓の枠に膝をついて、外を見ている月島の心情を山口が翻訳する。
「やったー!帰ってきてからはじめてのお出かけだー!」
のはしゃいだ声に二人はハッとする。彼女は帰国して山口家にきてからと言うもの、ほとんど家から出ない生活を送っていた。
一緒に課題をして、ご飯を食べて過ごせるだけでも新鮮で満たされていただ山口、月島はその点に思い当たらなかった。
それを知ってか知らずか、嵐のように現れナイスなタイミングでケーキを差し入れし、これまたナイスなタイミングで(強引だが)外に連れ出す明光は、にとっての“良いところ”となる見せ場を掻っ攫っていったのだ。
(母さん!!!月島兄弟…特に明光くんは強敵だよ!!!)
山口は手をグッと握って、内心ひとりごちた。
「ま、そんなこったろーと思ったよ。」
運転しながら、明光が言った。
車内では地元のラジオが流れている。日本語の響きが懐かしいと思いつつ、は聞き流していた。
「?どこか出かけたくなったら、お兄さん呼ぶんだぞー?車出してやるからな!」
すっと横から出てきた明光の手が、の頭をぐしゃぐしゃにする。
「う、うん!ありがとう!」
素直に返事をするを見て、後ろから月島がすかさず口撃する。
「何、片手運転してんの?殺す気なの!?」
「んな、ヘマはしねーよ!いつも安全運転ですぅ」
な!だからまた助手席座ってくれよな!とぽんぽん頭を叩いて、明光の手が離れていく。
((帰りは僕が前に座る!!))
月島と山口は目線で牽制し合いながらも、同じことを考えていたとか、いなかったとか?
…知らぬはばかりである。