第5章 懐古と芽生と安らぎと
呼び鈴に、皆玄関の方を見やる。
山口が
「はーい。どちら様ですか?」
とインターホンに出ると。
「宅配便でーす。」
陽気な声が聞こえてきた。
月島はその声に眉根を寄せて、玄関へ出ていく山口を止めようと腕を伸ばしたが、時すでに遅し。
「え!?えええ!??」
玄関で素っ頓狂な声をあげる山口。
バタン、ドタバタと足音が近づいてくると、長身の男性がひょこっと顔を出して、ひらりと手を振った。
「やぁ、蛍、!元気に勉強してる?」
「たった今、元気がなくなったところだよ。どーしてくれんのさ、兄さん!」
…現れたのは、月島の実の兄、月島明光その人だった。
「…あきくん?」
「おぅ!覚えててくれた?お兄さん、嬉しいぞー!」
そのままのテンションで両手を広げてにハグを求める兄を月島はしれっと足蹴にした。
「近づかないでくれる…バカがうつるから」
グヘッと脛を蹴られた明光はその場にうずくまっていた。
「あきくん!大丈夫?」
「だいじょばない…クリーンヒットだよ」
は駆け寄って明光の顔を覗き込んだ。
瞬間、口元がにやけたかと思うと
「隙あり!」
ガバッと明光に抱きすくめられてしまった。
「ひゃっ!」
「ちょっと、やり過ぎだよ明光くん」
困った顔をしながらも、確実にバリバリと明光の手を剥がす山口の目が笑っていない。後ろに黒いオーラが見えたのは気のせいだろうか。
…本当なんなの、月島兄弟揃っちゃったよ。はぁ??
母の言う“ 娘化作戦”でいう、強敵が山口家に揃ってしまった。
内心の動揺を悟られないように、手早く彼女を救出した山口は背中にサッと庇った。