第1章 ~移ろいやすく、移ろいがたく~
中に包まれていたのは金色の針だった。
三本あり、大中小と長さも太さも違った針が美しい金色の光沢を放ち、何より乱世では見た事の無い細い針だった。
「わっ……凄い……」
思わず見とれる。
微かに頬が上気して薄桃色になり、先程までの一心不乱に縫物をしていた時とは違った目の輝きになった。
素直過ぎる表情に信長は内心、「相変わらず分かりやすい上に無防備なことだ」と思うが、僅かに胸のどこかが騒めいた。
その騒めきの動機が分からず奇妙な気分になるが、その感情の機微は表面に全く表れない。
「俺に針仕事の道具など分からんが、質の良し悪しくらいは何となくな」
夜長の反応に満足したらしい光秀がすっと立ち上がる。
「ありがとうございます!びっくりしました。でも、良いんですか?こんな珍しい物を」
光秀は喜びながらも恐縮する夜長に軽く手を振る。
「それこそ俺が持っていても不要な物だ。お前が喜びそうだと思いついでに買って来ただけの土産物。気にするな」
そう言い、信長に優雅な一礼をして天主を去って行った。
「そんなに嬉しいか?」
信長の問いに夜長は満面の笑みで「はい」と答える。
「こんな細い針は珍しいので。きっと絹糸専用でしょうね。でも、何より光秀さんがお出かけのついでに気に掛けてくれたのが何だか嬉しいです」
素直な気持ちだった。
さりげなく揶揄い混じりに慰められる事や、意地悪な笑みで助言をくれる事はあったが、あんな穏やかな微笑みで贈り物をくれたのは初めてだ。
歩み寄ってくれたようでほかほかとした気持ちになる。
そんな夜長の様子を、信長はどこか複雑な表情で眺めていた。